ラース・フォン・トリアー監督の作品は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』以来2本目で、あまりの素晴らしさに感激して泣いた。こんなに興奮したのは本当に久しぶりだ。トリアー監督の特徴は登場人物を極限の状況まで追いこむことにより、物事の本質を浮き彫りにしているところにあると思う。だから観ていると暗澹たる思いになってくるし、必ずしも万人に受けいれられる作風ではないだろう。けれども、泣かせることそのものが目的化したいわゆる「お涙頂戴」映画よりも、はるかに誠実でストイックだ。まあ、商業映画と比べるのはナンセンスではあるんだけど、あまりにもこういった作品が無視されていることに歯がゆさを感じるのであえて書いておきたいと思う。最後にこの作品の主題に触れようと思うのだが、僕は観終わったあと「純粋な者ほど社会から疎外される」と思った。ぜひ観て欲しい映画なので詳しいことは書かないが、主人公は自分の夫を愛するがゆえにキリスト教社会の倫理を次々と踏み外していき、しまいには社会から追放されてしまう。社会規範と個人的信条の対立が明確に描かれており、主人公の言動は周囲から「狂人」としてうつるのだが、トリアー監督は本当に彼女は頭がおかしいだけなのかと観ている者に問いかけてくる。どうとるかは観る人しだいだとは思うが、最後のシーンの「奇跡」が全てを物語っていると思う。